パタンランゲージの記述についての考察

パタン・ランゲージ―環境設計の手引

パタン・ランゲージ―環境設計の手引

バリエーションはあるものの、一つのパタンは、背景、問題、解で書かれていること、パタン同士がネットワーク上につながっていること、言語で語る際、導入の手順の際、人が移動して体験する際などは、パタンの連なりのシーケンス状をなしていることは今回は触れない。前述以外の、本家のパタンランゲージの記述について考察することで、本家のパタンランゲージの役割の解説を試みる。

パタンランゲージには、形に関する描写がある

建築物の設計に関するものであるので、当然であろう。写真や手書きの図面が添えら、文中にも形に関する記述がある。

パタンランゲージには、学術的引用がいくつかある

パタンの説得力を増やすため、社会学的、心理学的な実験の引用がなされている。68:つながった遊び場では、子供達が仲間と十分に遊べる場がない場合の精神病に陥る危険性を強調するために、精神病と友人数の関係に関する引用をしている。
(情報の信頼度はよくわからないが、)21:4階建の制限でも高層ビルが人間をおかしくする危険性を強調するために、高層ビルと人の関係に関する引用をしている。

パタンランゲージには、人々の生活のふるまいに関する描写がある

この本は、人が生活しない建築物はターゲット外。全てではないが、写真にも人が写っている。動画という媒体ではなく、写真という媒体のため、振る舞いの全てを読み取れないが。文中にも人々の生活の1シーンの記述がある。
26:ライフサイクルでは、おじいさんと少女がボードゲームらしきもので共に時を過ごすシーン。147:会食では、家族がテーブルを囲み乾杯するシーン。58:カーニバルでは、人々が楽しく過ごしているシーン。148:小さな作業集団では、職人らしき人が、仕事をしているシーンの写真が添えられている。

パタンランゲージには、人々の心理のふるまいに関する描写がある

例えば、プライベート と 公共性。 一人で静かに過ごしたいのか、仲間と楽しく過ごしたいのか、人の輪には加わりたくないが、一人もいやで人の輪の周辺でなにか感じ取りるように過ごしたいのか(179:アルコーブ)、private と publicの微妙な心理のニュアンスを描き、それを実現するのにどのように形づければ良いか記述されたりしている。
112:入口での転換は、物理的な視覚の転換だけを記述しているのではなく、人の心理(くつろぎの度合い)の転換が描かれている。181:炉火では、瞑想的な精神活動と火の暖かみの繋がりについて描写している。115:生き生きとした中庭は、名前からすぐに人の心理の描写までターゲット範囲であることが想像ができる。

パタンランゲージの役割

建築物の設計に関するパタンランゲージは人のふるまい(生活、心理)を意図的に記述している。ソフトウェアパターンの設計に関するパターンは、ここを省略する傾向にある。デカルト系の考えの採用の度合いの差が現れている。本家のパタンランゲージは、デカルト系の考えの採用の度合いが低く、ソフトウェアパターンは高い傾向にある。

アレグザンダーの感覚だと、普通の人と比べ、人々のふるまい(生活/心理の動き)と建築物の関係は、互いに深く深く浸透し合っていることを感じ取っているようである。パタンランゲージの役割の一つは、本来人間に備わっている、人々のふるまいと建築の密な繋がりの共通感覚(Common Sense)を呼び醒ますことにある。共通感覚を呼び醒ますことで、良いまちをつくりたい、良いまちに住みたいの活動-意志を生み出し、人々のまちづくりの参加の度合いを高めることにある。そして、パタンランゲージを使いながら、人々のまちづくりの活動を通じて、良いまちの生活やかたちを形成したり、保存したり、修復したりすることにある。